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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)545号 判決 1960年3月11日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人鍵尾豪雄、同渡辺里樹の上告理由第一点について。

所論の原判示は当事者の主張に基いて本訴請求につき確認の利益を肯定したにとどまるのであるから、この点の判示に証拠を必要とするものではなく、また、訴外有限会社呉劇場に対する対抗要件の有無を別として、本訴当事者間における確認の利益を認めた原審の判断も是認することができるから、所論は採用できない。

同第二点について。

自己の権利を否認する者に対し権利の確認を求める訴を提起する場合において、確認を求める法律上の利益ありといいうるためには、被告が当該権利が自己に帰属する旨主張することによるとこれを第三者の権利である旨主張することによるとを問わず、被告において原告の権利を否認する結果、原告の権利者としての地位に危険、不安定等なんらかの不利益を及ぼす虞が現に存在する場合であることを要するものと解すべきである(大審院民事聯合部大正一一年九月二三日判決民事判例集一巻五二五頁参照)。本件についてみるに、上告人出来元は、本件持分が現在自己に属することを主張するものではないが、自ら転付命令により右持分を有効に取得したうえこれを上告人正脇に譲渡したとして右持分は現に上告人正脇に属することを主張するものであり、かつ、本件持分は判示有限会社の社員名簿上、上告人出来元を経て現に上告人正脇の名義となつているというのであるから、被上告人において右名義を自己に回復するには、上告人出来元の右の主張はその障害となることはあきらかであるから、被上告人は上告人出来元との関係においても本件持分の帰属を確定する利益を有するものというべきである。従つて右確認の利益を認めて上告人出来元の被告たる適格を肯定した原審の判断は正当であり、論旨は理由がない。

同第三点及び第四点について。

有限会社の持分が民訴六〇〇条にいわゆる券面額のある金銭債権に当らず、これを目的として転付命令を発することの許されないことは明らかであるから、かかる場合には、本件転付命令は、執行手続上当然に無効ではないとしても、実体法上その内容にそう権利移転の効果を生ずるに由ないものと解するのが相当である。したがつてこれと趣旨を同じうする原審の判断は正当であり、その理由の説示にも欠けるところはないから、所論は採用できない。

同第五点について。

本件においては有限会社である訴外会社の持分の帰属について当事者間に争が存するのであるから、その争ある当事者だけの間で持分の帰属の確認を求める本訴請求は適法であり、たとい所論のように訴外会社において本訴の判決により確定されるべき持分の帰属を承認しない虞があるとしても、そのことの故に右持分の帰属を訴外会社との間でも合一に確定しなければならない理由はないというべきである(大審院昭和八年一〇月一三日判決民事判例集一二巻二五〇二頁参照)。されば所論は採用することができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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